週末小説企画 『炬燵布団小説』まとめ

・2月3日金曜夕方から突発的に始まった、「人にお題をもらって小説を書こう!」という企画に参加してくださった方の作品です。枚数制限無し、期限は2月5日21時まで、という設定でした。
・お題はたばためさん(@tbtm99)さんから頂いた「炬燵布団」です。「炬燵布団って炬燵とどう違うの…?」「炬燵布団小説って何…?」という意味不明な問いが超局地的に発生していました。
・事前に参加してくれると仰っていただいた方、また飛び入りサプライズで参加してくださった方、本当にありがとうございました。こんなに参加していただけるとはちょっと思ってもみませんでした。
・最後に、企画者が遅くなってしまってすみません……。皆さんお早い。
・作中から、数文勝手に引用して紹介しています。

 

1.エマノンさん『無題』(@lowemanon
「この足を突っ込んでいる炬燵が世界の中心である」

http://privatter.net/p/2153832

 

2.鮭とば子さん『M』(@lrg_girl
「それ以上、何もなかった。おれはたずねることはないし、Mが何か口にすることもない。きっとこれからも。あるいは、たぶん」

http://lrigirl.web.fc2.com/short/165.html

 

3.ぐるぐるさん『炬燵布団』(@suzushi221
「どんどんお腹がまるくなっていく。章吉の嫌いなまるになっていく。私はそのことがこわい」

http://privatter.net/p/2156671

 

4.じょんさん『おもいおもわれ』(@borokobo
「先輩は不思議な人だった。一般的な大学生からはずれている。先輩が赤信号が続けばいいと思えばその通りになるし、空気を読もうとしたら大気に突然文字が浮かび上がる」

http://privatter.net/p/2157490

 

5.佐々田端束さん『炬燵布団小説』(@ssd_hntk
「あなたの手は熱い。けれど脚が、どうしてだろう、まだ温まらない」

http://privatter.net/p/2157646

 

6.ぐるぐるさん『15センチ四方の世界の全て』(@hutariguruguru
「どうしようもなく可愛くて仕方がない。俺を殺そうとしたことも? 無関心よりはましだろう」

http://privatter.net/p/2159160

 

7.箱さん『炬燵布団に秘められしBL可能性』(@_BOX
「ふと気がつくと受けは自分が炬燵布団になっていることを発見した」

http://privatter.net/p/2159330

 

8.Raise『裸の炬燵』(@Raise_4096
「お前がそんなに勝手なら、俺にだって、勝手な実験ぐらいさせろよ」

https://docs.google.com/document/d/1G80SrJXKKLEHMtkHNmYzAPysFC8rBJFjvu3BDrkGtWE/edit?usp=sharing

 

 以下は総評と各作品への評です(2/18)。

 

◇総評 
 面白かった! 「炬燵布団」って人にお題を頼んだ側が言うのもなんですけどかなり厄介な題材で、炬燵とどう違うんだよというところに引っ掛かるなら「布団」のほうに話をずらすことになり、そういうのを気にせず大雑把に「炬燵」だけで消化してもいいのでしょう。後者で面白かったのは「布団」の消化から布団の中の「暗闇」に着眼し、さらに視覚ではよくわからない「妖怪」や「体温」に転じた小説。この消化方法は見事。正攻法じゃないのだと炬燵布団に変身するやつは流石にびっくり。
 もう一つ興味深かったのは普段書き慣れてる枚数がどれぐらいなのかうっすらと透けて見えてきそうなあたり。かなり短い期間、実質即興に近いイベントだったので、中編長篇を書くのに慣れている人だと掌編をいきなり書こうとして四苦八苦するかもな、と感じました。そういう方の小説は、もう少し長い期間で書かれたものを読んでみたいな、と個人的なわがままとして思います。
 いずれにせよ厄介な題材でしたが、個々人がどういう感覚や要素に着眼するのかが見えてくる面白い題でした。今回はお付き合いいただき有難うございました。

鮭とば子『M』
 ある意味では何も起きない、物語を書くというよりは際どい感情の発露を描く小説なんだろう。こういうものを書かせると抜群に巧い人だとは知っていたけれど流石に盤石の出来……。これ以上先に進んでは小説にならないし、言ってしまえばMも「おれ」も自分の感情を片側で自覚しつつ、単なる誤認じゃないかと先に流してしまいそうなところがある。それを、切なくとか、変な感傷で書くのではなく、あくまで明晰な文章で書くところは流石。「彼女が出来そうになったが寸前でやっぱ振られる」というのはBLの定番展開だなあ。Mは彼女に付き合ってと言われたら普通に乗っただろう。そこの呆気なさというか、関係性を描いてはいるんだけれど異様に情が強いわけではないというさっぱりした感じ、あるいは煮え切らなさが素晴らしい。でも二人とも早く彼女作ったほうがいいよ……って読んでて勝手に焦ってしまった。そこがBLのようで、案外ファンタジーにはなってない(雰囲気をファンタジーっぽくして話も単にファンタジーだったら小説として読みどころが無いわけだからこのほうが絶対良い)。〆の文章は予想外だけど面白かった、ぜひ使いたい。「おれ」にはこれから冬になるたびMのことをたまに思い出して「何してんだ……?」って気分にはなってほしい。てかM早死にしそうだな。
 
○ぐるぐるさん(赤)『炬燵布団』
 ぐるぐるさんの小説をちゃんと読んだの初めてだなあ。最初の一文で「秋口」から「晩秋」に時間を移動させて弾みをつける。冒頭の一文ってだいたい読む側が小説の内側に入れるように、書く側が書く弾みをつけれるように移動や運動を書くのが鉄板なのですが、ああ、書き慣れている人なんだなあと思う。私から章吉への感情、それから二人の状況をスピーディに書く。いいですね。私から章吉への感情は「大好き」とざっくばらんに書かれていて、なんだか不穏なものを匂わせた結末。男はDV男一歩手前だし女ともども思考がちょっと理解しにくい。ただそういう理解しにくい二人ではあるけれど何だかんだうまくやっていけてしまう、そういう関係性自体をひとつの作品として描きたいのかなという気がする。最後の結末で急に優しくされるのダブルバインドじゃん……というかこのヒロイン最終的に子供を理由に別れられなくなりそう……と勝手に暗い気持ちになっていました。ただちょっと意地の悪い注文をするならこの人の文体はもっと長い枚数で活きる気がする。ちょっと窮屈というか、書き手の書きたいものが十全に書かれていない印象を受けなくもない。文体は軽やかだけれどハイテンポに物語を書き連ねていくタイプという気もして、そういう人が枚数制限や時間制限の設けられた場合にアクの強いエピソードや人物で小説に仕立てようとするのは割によくあるんじゃないか。これはちょっと企画の性質上仕方ない話なんだけれど、この人のもっとじっくり本腰を入れた小説を読んでみたくはあります。そういう意味で、また別の小説を読ませてほしい一作でした。
 
○ぐるぐるさん(緑)『15センチ四方の世界の全て』
 エキセントリックで不幸なヒロインって…こう…男のある種の欲望を詰め込んだような存在! 「俺」の情けなさ、理沙子の過去と布の切れ端と鮮やかなエピソードはあるのだけれどもそれが小説として一つの流れ、意味をもって浮き上がってこないむず痒きがある。この人もある程度長い枚数でじっくり書いた方が面白い気がする。企画に乗ってもらった人間の言うことではないんだけど。「あまりにちんけで無力な言葉が思い浮かぶのだけれど、そんなのとてもじゃないけれど口にすることはできない。くだらない童貞の妄想みたいな言葉に対して彼女の抱えている悲しみはあまりに重くて深くて、そんな言葉が彼女を救えるのだとしたらそれは都合のいい創作物の中だけだ」と考える「俺」の頭の悪さが作為的な、概念的なものとしてコントロールされてるのかちょっと自信が持てなくて(……あまりに小説らし過ぎるというか)この人の小説のスタイルとして、こういうカッコいい文章は普段なら相応で適切な物語の積み重ねの先に置かれるんだけれど、企画の性質上そこがスキップされてしまったような印象を受ける。むず痒いというか、この人に関してもやはりこの小説以上の力量を持っている気がしてなりません。そういう意味で赤いほうのぐるぐるさんと同じく次作を読んでみたい。
  
○じょんさん『おもいおもわれ』
 「空気は吸うもので吐くものだと思っている」のエンシェントおたくなところ最高に笑ってしまう。マイルドでアクのない恋愛小説といえばそれまでなんだけど、そこに先輩の能力、妖怪という一工夫が加わっていて凄く質の高い掌編になっている。先輩も語り手のヒロインも性格が良さそうな感じで無条件に信頼してしまいそう。本人の性格は知らないけどこれほど素直に好感の持てる人達を書けるのはひとつの特性で羨ましいなあと思う。決して毒にも薬にもならないような掌編、というのでもなく、一工夫をうるさくない程度にさっと利かせたウェルメイドな掌編であって、この人の長い小説は是非読んでみたい。あくまで推測だけど、二次創作の質が物凄く高そう。蜜柑の剥き方なんかどうでもいいでしょって思ってそうな先輩と、そういうところが気になる女の子という描き分けとか、相手の理解し難さと「妖怪」の掴み難さが重なるところとか、さらっと書かれているし本人にそういう自負も無いのだろうけれど何気に書き慣れたが故のテクニックを伺わせる小説で、素晴らしいです。好きな掌編でした。でもマジで空気の下りはエンシェントおたく。
 
○箱さん『炬燵布団に秘められしBL可能性』
 さすがにこの書き出しは凄い。「受け」って言葉自体あまりに使い古されてはいるけど普通に変な単語だし、だいたい冒頭からいきなり「受け」って誰だよって感じだし(でも内輪に向けた文章というのではなくて笑わせてくるパワーがあるから、これは立派にひとつの作品なんだなあと思います)星井七億さんとかのメタBLギャグっぽい。でも変態なようで家具に変身した感覚を書くあたりのSFっぽさ(……何気にこんな現実にありえない体感を感じられる気になれる文章ってすごいものです)は好きだし、照れ隠しのようにナスビとキュウリのオヤジギャグに走ってはいるけれど電源の入っていない炬燵で寝てる受けさんは可愛い。何気に文章がうまいのはこの手のアホギャグものを書く人にはよくあるけれど、変な発想と、案外根柢のBLの素朴さにほっこり出来て楽しかったです。息切れではなく意図して力を見せ切ってくれない感もあるけど、それは企画の限界かな。面白かったです。
 
佐々田端束さん『炬燵布団小説』
 痛い女といえばそうかもしれない。別に何か約束を取り付けたわけでもなく、勝手に情を膨らませ勝手に怒っているだけの異様に勝手な想い、ひょっとすると片想いと名付けることすら能わないような感情なのかもしれないけれど、その勝手さを十二分に自覚して冷えられるだけの距離感がいい(というか掌編として結晶するにはこの距離感は必須だったでしょう)。切ないというような綺麗な言葉ではなく、徹頭徹尾勝手に怒っているだけなんだけれども、その感情の描写だけで読ませられる掌編というのはなかなか見事だろうと思います。一方で「あなた」も徹底的に無知というわけでもなく、何かしら刺々しいものがあることを自覚している。文体は正直まどろっこしくはあるけれども、勝手な感情とその自覚、という混乱を巧みに反映した、物語の側から意味づけられたまどろっこしさなのでするりと読めるものがあります。ごく短い場面なのだけれど、良い意味で中編小説の一部のように読める小説でした。

 

エマノンさん『無題』
 明晰に書かれているようで何もかもが曖昧で茫漠としている。それは手癖というより、深い傷を受けた主人公の回想の限界として読むべきなのでしょう。台詞回しや細部の情報の出し方に違和感を覚える一方で、これは(もしかすると書き慣れていないというのが一因だとしても)主人公の混乱を反映したものとしても読める気がします。人の死を展開上のクライマックスに持ってくる小説ってそれだけではなかなか小説になりにくいわけで(死んだ後から回想する、というのなら別で)瞬発的なイメージで書かれた勢い、とでもいうべきものを感じました。やはり中編小説の一部、ここから「私」の物語が始まる第一歩というような掌編でした。この短い文章に書き手の個性すべてが現れたとは言いにくいですが、情報量の出し方、住み慣れたはずの部屋を不思議に遠い場所のように描く書法、それとは一転してびっくりするような結末の付け方といい、なかなか独特な掌編でした。単純に中身のないものを無理に書き込もうとしたものとは思えない。これはこの人独自の文体なのでしょう。