「国試の本質は何ですか」という質問を頂いたのでお答えします

 ask.fmでいただいた「国試の本質は何ですか」という凄まじくファジーな質問に答えを書いたら文字数制限で弾かれたのでブログに載せます。そもそも質問する相手間違ってない…?

 

 答えは各自まちまちでしょうから色んな人に話を聞いてみてください。私にとっての本質になるのですが、結局は「ベーシックな知識」と「判断力」を問う試験だったと思います(超つまんない回答ですね)。
 ちなみに私の成績はそんなに良くないので話半分に聞いてください(ボーダースレスレで苦しむことは無いですけど友人は全員私より成績良いです)。
 
 具体的に何を評価・判断するかというと、
①自分の能力や特性
②どこまで勉強するべきか
③当日の試験問題自体
 の三点です。そりゃそれしかないだろってセレクトですが。

 ①に関しては、自分が直前に追い込みの利く人間かどうか見極めておくことが非常に大事です。直前期にメンタルがやられて勉強が出来ないリスクがあるなら当然先回りして勉強したほうがいいです。私は自分のメンタルを信頼していませんでしたから、自然とそういう勉強をするしかありませんでした。ここの判断を誤ると流石にヤバいんじゃないでしょうか。案の定直前期は毎日布団をかぶってツイッターをする有様だったので、それまでに勉強しておいて良かったです。
 
 ②に関しては、諦める能力とも言えます。
 ひとつの科の疾患をどこまで数多く勉強するか。あるいはコモンな疾患でも「どこまで奥深く勉強するか」という問題があるわけです。だからといって全疾患全事項を勉強するわけにはいかないわけで、「これは出るかもしれない」「これは流石に出ないだろう」という見極めが必要になってきます。あるいは「この疾患・この事項は仮に出すとしても知識のない学生が本番で解るように出すはずだ」という推測です(③に絡みます)。
 
 たとえば今年出たReiter症候群の問題。実際にReiter症候群まで押さえていた学生は稀ですし、またこういう国試的にレアな疾患はそもそも出題が少ないので演習のしようがないのが実情です。
 111A53はa.網状皮斑は血管炎の症候だし関節炎でこれは流石にないだろう、bとdはIEの症候なんだからどっちもバツ、ということで消去法でcとeが残ります(更にここからクラミジアと関係ありそうだからcは確実にありそう、全身疾患っぽいからeもあるだろう、という判断が入ります)。なので実際にはReiter症候群なんか勉強してなくても解けるわけです。
 こういう問題は知識を問うというよりは学生の判断力を問う問題と判断すべきです(つまり作問する側もReiter症候群なんか知らんだろうなあという前提で作っています)。過去に出た疾患だけを繰り返し出すのは出題側もばつが悪いわけで、こういう判断力を問う問題が出るのは仕方ありません。
 
 マイナー科を何をどこまで勉強するかですが、基本的にマイナー科の先生も「全員がマイナー科に進むわけではない」という前提を共有しているものと考えて構わないと思います。であればそういう先生が出題する疾患は、自然と①commonか、②criticalな疾患のどちらかになると思います。眼科なら前者は白内障とかで、後者はCRAOとか急性緑内障発作になるんでしょう。
 あるいは整形外科なら骨折と腫瘍だけは最低限押さえておく。骨腫瘍は骨肉腫と骨巨細胞腫ぐらいしか理解出来ないならもうそこでやめておく。骨折は逆に合併症ぐらいまでは単なる知識として押さえられるんだから押さえておく。
 
 もうひとつ忘れてはいけないのは③混同しやすい疾患です。具体的にはa. 名前が似ている, b. 症候が似ているペアです。これは仮にcommonでもcriticalでもないとしても(……いや国試で本当にレアで緊急性のない病気ってあんまり出題されないしされたら諦めていいと思うんですが)試験問題を作成する上で引っ掛け選択肢を作り易いからです。
 たとえば眼科なら網膜色素変性と加齢黄斑変性、それこそ整形外科の勉強してないと全部一緒にしか見えない骨腫瘍シリーズ、感染症なら麻疹と風疹です。今年度の必修でbを問うたのが溶連菌とアデノウィルスの鑑別を訊いたやつ…とまあ言えないこともないわけですが(必修で訊くなよ実際疾患に対する苦手意識は「名前or症候が似てて訳わからん」に由来する場合がほとんどです。ちなみにこの手の混同しやすい疾患ペアは教科書を開けたら全然違うケースが非常に多いです。つまり苦手意識が先立ち過ぎて「どうせ解らんから」といつまでも放置しているパターンです(ちなみに私の場合は脳出血の症候とか内分泌の負荷試験とかでした)。
 あと、引っ掛け選択肢を作りやすいという意味では過去の除外選択肢の意味をさらっと確認しておくのは案外大事です。Argyll Robertson瞳孔とか皮膚結核とか、本番知らずに出されたらパニックを起こしそうな選択肢であってても、Argyll Robetson徴候ってよく知らないけど神経梅毒とかMSで見られるんだね、尋常性狼瘡って何なのか解らんけど皮膚結核なんだ、とかそんな程度で構いません。幸運にも本番で出たら自信を持ってバツ出来ます。
 
 どこまで勉強するかという話は、どの教科書を選択するかに関わってきます。
 これは神経内科志望の成績がアホみたいに良い友達の話をそのままパクるんですけど、レビューブックさえあれば国試は十分じゃないでしょうか。朝倉内科学とかはもう別次元としてイヤーノートとか持ち運びしんどくない…? 字細か過ぎて読めなくない…? 本番の休憩時間にあれ持ち込んでる人結構いてビックリしました。
 出題された事項をまとめてる以上、普段の過去問演習もレビューブックさえあれば大体何とかなるし、実際あそこに書かれた事項を全部押さえるだけでも大変です。裏返せば、あれをきっちり読み込んで落ちる可能性は低いかなあ……と。私は直前期に内分泌とか血液とかさっと読んだのが本番で大いに役立ちました。ページ数が少ない割にしっかり疾患を押さえてるのは評価ポイント高いです。あと、国試の正解選択肢にいちいち下線を引いてくれているので、「あ、この事項が問われた疾患はこんな問題だったなあ」と記憶を反芻出来たりもします。レビューブックに出てない事項を問われた場合は、(後述しますが)知識でなく判断力を問うているか、あるいは捨て問と判断しても構わない気がします。あと、見た目が薄いので「国試の勉強ってこんだけでいいのか!」と気楽に思わせてくれるところも美点です。「こんなにたくさん勉強しなくちゃいけない」という意識はそれだけで勉強のモチベーションを下げかねません。

 
 ちなみに必修でビビりがちな投与経路とか体位とか診察の問題はレビューブック必修に載ってます。この手の問題を正答出来なければ落ちるという土壇場にそもそも陥らないのが肝要とはいえ、「俺は投与経路も体位も診察もとりあえず押さえたぞ」という自負は本番のメンタルを安定させます。Amazonレビューの評価は妙に悪いですけど、私はオススメします。必修ガイドラインに則って症候ごとに疾患が羅列されているので、「そういやこの疾患って何だっけ…」と結果的に全科の復習に繋がりやすいのも良いです。なぜあんなに評価悪いのだ。
 ともあれまず誰もが知っている事項を落とすわけにはいかない、という国試の大原則からすると、レビューブックの赤字から勉強していくのは悪い勉強法ではないはずです。というか本番前になっても赤字で抜け落ちてる事項は正直アホみたいにあるので、それを手軽にスピーディーに確認復習できるという意味でも私はレビューブックを強く推します。しかも安い。素晴らしいです。
 
 最後に③当日の問題の評価です。判断のカテゴリとしては、
a.知識ではなく学生の判断力・読解力を問うている
b.誰も解けない、平均点を落とす前提で作っている
c.削除前提で作っている
d.誰もが解ける前提で作っている
 あたりでしょうか。dの問題は当然落とせません。bの問題は落として問題ありませんが実は問題文をよく読めばor選択肢自体がヒントになっているaの問題という可能性があります。基本的にはdさえ解ければ受かる試験なんでしょうがaを当てれると気分が安定します。ぜひ当てたい。そこの見極めは大事です。
 
 cの問題はたとえば今年なら呈示されてる画像がわかりにく過ぎることで人気を博した111c21です。これは私の妄想なので真に受けないでほしいんですけど、111c21のような明らかに答の決まらない問は合格率調整のためにあえて作られたのだと思っています(大多数の人間より優秀であろう各大学の教授が意味もなくこんな悪問を出すとは考えにくい……というか考えない方が私は好きです)。「この問題を採点除外にすれば合格率9割を切るけどこの問題ならギリギリセーフ」という微妙な選択をするために、あらかじめ「この問題は採点除外にしてもいい」という悪問の準備が必要なんじゃないかなあ。逆に言えばこの手の削除前提の問題は答えられなくても仕方ないです。出来なくとも真に受けずにも流すべきだし、これが解けなくても受かる程度にはベーシックな知識を習得しておくべきなんでしょう。

 aの例をもう2例挙げます。
 ひとつは110回のRolandてんかんです。発達の遅れがあるなら6歳以前に気付かれるだろうからaは×、cが答えならWest症候群でaと答えがダブるから×(いや他にACTH療法の適応があるてんかんがあるのかもしれないんですけど私が国試で見たことはないからここは×していいのです)、dはMoyamoyaなので×(いや過呼吸賦活試験は欠神発作で陽性になるらしいんですけどそこまで押さえてる学生って本番何人いるのかって話ですし、仮にこれが○ならそういう病歴が問題文に書き込まれていそうなものです), eは神経学的に異常を認めないからおそらく×で残りはbだけになります。これまで発作を起こしていたのかもしれないけど6歳の入眠時だから今まで誰も気付かなかった、という勝手な想像が立ち上がったら確信度は上がります。したがってこれはRolandてんかんを知らなくてもWest症候群とMoyamoyaという国試的にスタンダードな知識があれば解ける問題で、Rolandてんかんの問題を装って後者を問うているベーシックな出題とも言えます出題する側も毎年West症候群とMoyamoyaを愚直に問うのはばつが悪いと考えるべきです)。てんかんや脳波に関する学生の苦手意識を巧みに衝いた出題であって、やっぱ神経内科の先生は凄いなと思います。この手の「消去法で答えが出る」問題は、言い換えれば「他疾患の基礎的な知識を問う」問題であるパターンが多いです(Reiter症候群のもそうですね)。
 もうひとつは今年のSigmoid diverticulitisです。私の英語力が貧相なのもあるのですが、だとしてもdeverticulitisという単語を知っている人間は稀なわけで(いや世間はそうではないのかもしれませんが国試本番は自分の知識が最大限蓄積されたタイミングですから、このときの自分に解らないのであれば自分以外も全員解らないと判断して構わないはずです――裏返せばそれぐらいは勉強したほうがいいです)ですからeにMeckel's deverticulosisが用意されていると読むべきです。
 
 などと長々書いてきたわけですが、結局過去問を10年分ぐらい解いて知らないことが出てきたらレビューブックで確認する、という勉強法ぐらいしか無いと思います。何だかんだベーシックな知識があれば受かる試験なので、もうくどいほど繰り返された話ですが「みんなが当たり前に知っていそうなことを自分も知っているようにする」が結局は原則です(その判断にはもちろん過去問や模試の全正答率が役立ちます)。そして教科書が違えど誰もが参考にするのは結局過去問なので、国試の勉強は過去問をひたすらちまちまと解き続ける他に方法はありません(そしてまた医学を学ぶ上で優れた教材なんだろうと今となっては思います)。必修に関しても同様で、10年分ぐらい解いてレビューブック必修を丁寧に読めば何とかなります。というかそれ以外の方法が思い付きませんでした。
 最初の問いに帰りますが、国試の本質は結局「基礎的な知識」と「判断力」という非常に、非常に味気の無いものになりますが、それでいいのだろうと思います。逆にそれ以外を問われたら困ります。
 
 ちなみにこんな偉そうに書いていますがマークミスとかで落ちてたらask.fmもtwitterもblogも全て消えますのでよろしくお願いします。あとリファンピシンが肝代謝ってところまで押さえてたらステロイドの効果が減弱するかどうか解らなくても95%ぐらいの確率で受かりそうと思ったのは私だけでしょうかあの総評はテンション高くて好きです)。以上です。受験生だったら頑張ってくださいね。