雑記

おもに調べ物のまとめです。

肥満症診療ガイドライン2016を読みました

肥満症診療ガイドライン2016

肥満症診療ガイドライン2016

 日本肥満学会が出している肥満症診療ガイドライン2016を読んだので、個人的に面白かったところだけ抜粋。
(たとえば喫煙と肥満の関連は、私がたばこをやらないので割愛しました。気になった人はちゃんとガイドラインを当たってください。このメモの内容を実践したことでヤバいことが起きても責任は取れません)

□標準体重について(p.4)
 理想体重がBMI 22×身長の2乗と定まったのは日本人のBMIと疾患合併率を調べた研究から。といってもこの分析集団が意外と小さいのが面白い。対象者は尼崎市職員の30-59歳4600人で、もっとも疾患合併率が低いBMIが男性:22.2, 女性:21.9だったことから。
 この分析研究が出たのは1991年の研究。意外と最近。
Ideal body weight estimated from the body mass index with the lowest morbidity. - PubMed - NCBI

□食生活について(p.19)
1. 低脂質食と低糖質食を1年肥満患者に食べてもらったところ、エネルギー摂取量にはグループ間差のなかったものの、後者の方が体重減少量が大きく、内臓脂肪の減少率も高かった。
Effects of low-carbohydrate and low-fat diets: a randomized trial. - PubMed - NCBI


2. 糖質を減らし、蛋白質を増やした食事を半年肥満患者に食べてもらったところ、高蛋白質摂取群は低蛋白質摂取群に比べて①体重脂肪の減少量が大きかった。②また蛋白質増加による長期の体重減少維持に対する効果も報告されている。
 理由としては、熱産生量が多く、満腹感を得やすいことが挙がる。
Randomized trial on protein vs carbohydrate in ad libitum fat reduced diet for the treatment of obesity. - PubMed - NCBI
Effects of anti-obesity drugs, diet, and exercise on weight-loss maintenance after a very-low-calorie diet or low-calorie diet: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials

3. 早食いと肥満度は若年期から中年期の男女において正の相関を示す。つまり、食べるのが速いほど肥り易いかも。エネルギー摂取量の過多だけでなく、血糖・インスリンの上昇を介して脂肪蓄積を促す可能性がある。
Eating fast leads to obesity: findings based on self-administered questionnaires among middle-aged Japanese men and women. - PubMed - NCBI

4. 朝食の欠食はその後の空腹感を増強させることにより、過食をもたらす可能性がある。同じエネルギー摂取量でも朝食欠食後の摂食では食後インスリン値が有意に高い。ただ介入研究によるエビデンスははっきりしていない。
Diurnal variation of human sweet taste recognition thresholds is correlated with plasma leptin levels. - PubMed - NCBI

□身体活動について(p.20)
1. 体重減少が目的の場合、運動による活動量増加はあくまで食事介入によるエネルギー制限を第一にし、そこに追加で行う。いくら運動しても食事が変わらないようではダメっぽい。
2. テレビ視聴時間と体重やウェスト周囲長との関連をみたコホート研究では、テレビ視聴時間は体重増加に先行し、この関連は性や年齢によらないことが報告されている。スマホとかパソコンでも関連を調べてほしい。
Exploring causality between TV viewing and weight change in young and middle-aged adults. The Cardiovascular Risk in Young Finns study. - PubMed - NCBI

□睡眠について(p.21)
 睡眠時間の短い場合はレプチン濃度の低下、グレリン濃度の上昇が報告されており、睡眠時間が短い者ほど肥るという報告はあるにはあるが、日本の研究ではいまいちエビデンスがはっきりしない。「睡眠時間には職業形態や仕事の有無、家事労働時間、さらにはうつや加齢など多要因が影響しており」「睡眠時間のみで肥満との関連を検証することは難しいのかもしれない」とのこと。睡眠時間が短いからといって肥る、とは単純に言い切れない、ということ。

 後々では夜型のライフスタイルとは関連がありそうな書きぶりなので、否定も肯定も出来ない、ぐらい。たとえば寝る時間がないほど忙しい人に「寝ないと肥りますよ」というのは殆ど暴力だし、早寝早起をしよう、という実行可能な範囲でのモチベーションにするならともかく、自他を変に追い詰める方向には使わないほうがいいかも。
 
□腸内細菌について(p.21)
 肥満個体ではBacteroidetes門の腸内細菌が少なくFirmicutes門の腸内細菌が多い、乳酸菌が多いなどの偏りがあり、細菌叢全体として多様性が減じている。腸内毒素症というらしい。機能的にも消化管内容物のエネルギー回収に優れ、脂肪組織における脂肪蓄積を促進することで、減量を困難にする。便微生物移植、プロバイオティクス、短鎖脂肪酸製剤などがこの改善に有益との報告がある。肥満治療のために外科手術を行ったあとでも腸内細菌が変化している。
http://www.nature.com/nature/journal/v500/n7464/full/nature12506.html
Therapeutic modulation of microbiota-host metabolic interactions. - PubMed - NCBI

□肥満と糖尿病について(p.25)
 27研究のメタ解析ではBMIが2低下することで糖尿病発症リスクは27%低下すると予測される。Body mass index and risk of diabetes mellitus in the Asia-Pacific region. - PubMed - NCBI

 逆に31研究のメタ解析ではBMIが1上昇するごとに糖尿病発症リスクは1.2倍上昇すると予測される。BMI<25を基準に、25-29.9では発症リスク3倍, 30以上では7.2倍。
Combining risk estimates from observational studies with different exposure cutpoints: a meta-analysis on body mass index and diabetes type 2. - PubMed - NCBI
 
□治療について(p.38)
・とにかく肥満治療の大原則は食事療法。これがもっとも有効。 BMI<35では25kcal×標準体重以下/日以下が摂取エネルギーの基準。
・治療当初からビタミン、ミネラル、微量元素を多めに摂取するよう心がける。
・必要な蛋白質、ビタミン、ミネラル、微量元素を含んだフォーミュラ食は肥満症食事療法の補助として有用である
。「フォーミュラ食を1日1回だけ食事と交換することでも有効な減量が期待出来る」(p.50)はGrade B, Level 2。
・フォーミュラ食についてはこれとか。初耳の概念。

The effects of partial use of formula diet on weight reduction and metabolic variables in obese type 2 diabetic patients--multicenter trial. - PubMed - NCBI

(7)(認知)行動療法について(p.40)
・「肥満症治療において行動療法は有効である」は推奨グレードGrade A, evidence level I。食事療法、運動療法に並ぶ扱い。
・肥満患者の食行動異常は3つ。
①食欲の認知性代謝異常:間食、ストレスに誘発された食行動。
②食欲の代謝性調節以上:過食、夜間大食。
③偏食、早食い、朝食の欠食。

・まず肥満症発症の要因、治療を阻害する因子の抽出と分析が必要。たとえばストレスなどの問題点への対処(ストレス管理)、食行動を誘発する刺激を遠ざける(雑誌で食べ物の記事を読む、身の回りに常に菓子を置いてしまうといった事態を避ける)。問題行動の修復と、食行動に対する誤った認識の修正が重要で、これがリバウンド防止に寄与する。
・特に減量効果の長期維持に再重要なのは自己体重測定の習慣化。1日1回でも測定が必須。
・肥満患者に対する(認知)行動療法に使える手段は次の三つが挙がる。

①食行動質問票
 肥満患者が実際に発した言葉や感想をまとめて作成したもの。「いわれてみれば、たしかにそうだ」と患者自身が食行動の問題点に気づくことが重要。これでまずは問題のあぶり出し。下記URLにチャートと合わせてそのまま載ってる。
http://www.geocities.jp/shirokujira0621/article/food-enquete/3.html

②グラフ化体重日記
 起床直後、朝食直後、夕食直後、就寝直前の1日4回体重を測定する。ベースは起床直後で、他は体重変動が起こり易い時間帯に設定されている。とくに夕食直後と就寝直前の測定は夜間摂食の有無が一発でバレる。
 体重の記載は測定1回ごとに行い、後からまとめて記載したりしない。
 起床直後の体重測定時に前日の値と比較し、どの行動で体重が増減したかを考えるのが大事。
 「水を飲んでも太る、空気を吸っても太るという認識をもつ患者も多いが、それは誤解であり実際には食べる時間帯だから体重が増加し、食べない時間帯では減少することをあらためて認識させる」(p.63)。高度肥満症患者は、体重増加の原因を知ろうともせず、理想体重へ向けて大幅な減量を達成することにのみ興味が向かっていることが多い。
 体重の増減をもたらす具体的な事象を患者に再認識させることが大事。 そして体重の現状維持がいかに大切で、その延長線上にしか減量は見えてこないことをしっかりと指導する。
 
③30回咀嚼法
・食事の際に1度口に運んだものは30回咀嚼してから飲み込む。これができれば○、29回でも31回の咀嚼でも×とする表が紹介されている(割愛)。「しっかりした咀嚼の実践」が「本来食から得られる歯ごたえや味覚の回復」を期待出来るって裏返すとデブの味覚ってイカレてんのか。
・早食いの是正。
・実際にやってみると顎が疲れる。咀嚼筋のトレーニングも兼ねてるのかも。
・食べる速さが遅いほうが、早い人よりもメタボの割合は少ない。

Self-reported eating rate and metabolic syndrome in Japanese people: cross-sectional study. - PubMed - NCBI



□肥満症治療薬について(p.44)
 海外では中枢性食欲抑制薬(セロトニン受容体アゴニスト、ロルカセリン)がもう販売されているらしい。
 日本では当然まだ。中枢性食欲抑制薬、すごい近未来っぽくて良い。

□食事における食品成分(p.50)
 バナナ、りんご、ヨーグルトなど、同じ物ばっかり食べる単品ダイエットは「微量栄養素が不足する可能性があり慎まなければならない」。微量栄養素を十分含んだフォーミュラ食はOKということか。

運動療法(p.52)
頻度は週5日以上が原則だが急激な効果を求めないなら週末に一気にやるのでもよい。
・具体的には週150~300分。1回10分未満の中強度以上の運動を積み重ねるのでもよい。
有酸素運動が主体。
レジスタンス運動(筋トレ)なんかも併用して。
・日常の生活運動も増加させる。早足歩行、自転車通勤などがよさげ(これが中強度以上の運動)。
・座位時間を減少させるのもエネルギー消費量の増加に有効。スタンディングデスクとかかな。

□生活リズムについて(p.56)
・肥満動物モデルでは概日リズムの破綻が見られる。マウスでは概日リズムの破綻と共に肥満になることが報告されている。朝食の欠食、夕食時間の遅延は肥満者によくみられる行動パターン。
・夜型のライフスタイルの定着は肥満を助長する。
・グラフ化体重日記は生活リズムの矯正と安定化にも寄与する。

□肥満とメンタル(p.104)
・激エグの項。
・肥満は気分障害、不安障害が一般より高頻度に認められる。特にうつに関しては非肥満者に比べて発症リスクが55%高まると同時に、うつ病も肥満症への進展リスクを58%高める。つまり肥満→鬱→肥満の最悪の循環があり得る。最悪過ぎる。
・肥満症患者に見られる心理的特性は以下の通り。
①自己評価が低い:不安が強く、他者からの評価に敏感で対人緊張が強い。
②困難な問題を回避する:自らの肥満状態や過度の食行動を軽視し、自身の深刻な身体状況を認識することから回避しやなすい。
③感情のコントロールとその対処が困難である:強い感情をもてあまし、それを抑え、他のことに転換して解消することが難しい特性であり、過度な食行動へと駆りたてる原因ともなる。

CiNii 論文 -  ロールシャッハ・テストを用いた肥満症患者の性格特性分析 : ハイラムダスタイルについて
Psychological profile of obese patients. - PubMed - NCBI
CiNii 論文 -  肥満症患者の行動と心理の特徴および手術後の心理的アプローチ (肥満症外科治療の現状と展望)

・当てはまらないデブいんの? 私は全部当てはまった。
・こう書かれると、けっこう怪しい精神状態という気もする。これを思い出す。
RIETI - 未病うつ(Non-clinical depression)に対する低強度メンタルヘルス・サービスにおける積極的な民間活力導入の提案:趣味を実益に変えて、医療負担から戦略的事業へ

・肥満治療は単純に身体のためだけではなく、精神衛生、メンタルヘルスのためにも推奨されるべきなのだろう。
 そう考えることを人に薦めたいわけではないが、自分の場合はひとまずモチベーションにはなりそう。